分子標的薬と免疫治療薬|ステージ4患者が医師/看護師に聞いた新世代の抗がん剤(体験談)

がん治療を塗り替える新世代の薬
はじめにお読みください

この記事は、大腸がんステージ4の治療を受けている筆者個人の体験や、主治医から受けた説明の記録、国立がん研究センター提供の情報をまとめたものです。筆者は医療従事者ではありません。掲載されている情報は、医学的なアドバイスや診断に代わるものではありません。

治療に関する最終的な判断は、必ずご自身の主治医や専門家にご相談ください。

抗がん剤の進歩について、化学療法の専門知識をもつ認定看護師に教えていただきました。その進化の主役となっているのが「免疫チェックポイント阻害薬」と「分子標的薬」です。

これらの新しい抗がん剤は、従来の抗がん剤(細胞障害性抗がん薬)が「がん細胞だけでなく、正常な細胞にもダメージを与えてしまう」のに対し、がんを狙い撃ちにする新しいメカニズムを持ちます。この記事では、がん治療の個別化(オーダーメイド化)を牽引するこの新しい抗がん剤について、仕組みや対象、副作用について学んだことを解説します。

目次

免疫チェックポイント阻害薬 ~眠っていた免疫の力を呼び覚ます~

免疫チェックポイント阻害薬のしくみ

免疫チェックポイント阻害薬のしくみ
免疫チェックポイント阻害薬のしくみ
(画像:国立がん研究センター がん情報サービスより)

私たちの体には、ウイルスや細菌などの異物を発見し、攻撃して排除する「免疫」というシステムが備わっています。

免疫チェックポイント阻害薬は、免疫ががん細胞を攻撃する力を保つ薬です。
T細胞の表面には、「異物を攻撃するな」という命令を受け取るためのアンテナがあります。一方、がん細胞にもアンテナがあり、T細胞のアンテナに結合して、「異物を攻撃するな」という命令を送ります。すると、T細胞にブレーキがかかり、がん細胞は排除されなくなります。
このように、T細胞にブレーキがかかる仕組みを「免疫チェックポイント」といいます。

国立がん研究センター がん情報サービスより

抗がん剤の認定看護師にも話を聞きました。

看護師

がん細胞はとても賢いので、がん細胞を攻撃する性質を持つ免疫細胞(T細胞)にブレーキをかけ、免疫細胞からの攻撃を回避しちゃうの。

看護師

免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞がかけたこのブレーキを解除する薬です。ブレーキが外れたT細胞は、再びがん細胞を異物として認識・攻撃できるようになります。

認定看護師さんは、T細胞の表面に「PD-1」分子という免疫チェックポイントを発見してノーベル生理学・医学賞を受賞(本庶佑教授:京都大学)し、それを製品化したオブジーボに期待しているようでした。

がん患者にとってはビッグニュース!!今後の普及・発展に期待したいです。

代表的な薬:

  • ニボルマブ(オプジーボ®)、
  • ペムブロリズマブ(キイトルーダ®)、
  • アテゾリズマブ(テセントリク®)

など

2. どのようながんに使えるの?

当初は一部の皮膚がん(悪性黒色腫)などに限定されていましたが、その有効性が次々と証明され、現在では以下のように非常に多くの種類のがんに保険適用となっています。

治療が行えるがんは、

  • メラノーマ(悪性黒色腫)、
  • 非小細胞肺がん、
  • 腎細胞がん、
  • ホジキンリンパ腫、
  • 頭頸部がん、
  • 胃がん、
  • 悪性胸膜中皮腫

などです。

国立がん研究センター がん情報サービスより

3. メリットと副作用

メリットとしては、その治療効果が挙げられます。

がん免疫療法が注目されている理由としては、

①他の薬が効かなくなった様々ながんの患者さんでも一定の割合(10~30%)で明確な治療効果を示す、
②しかも人によっては比較的持続的な効果が得られるかもしれない、

という2つが挙げられます。(中略)今多くの製薬メーカーは、免疫療法の開発に力を入れ始めました。10年前には考えられなかったことです。

医療従事者サイト m3.comより

デメリットとしては、奏効率の低さと多様な副作用が挙げられます。

ただその一方で、免疫療法が効くというのが強調されすぎることによる誤解や弊害が生じています。現時点でも多くのがんでの奏効率は10~30%であり、実は効かない症例のほうが多いのです。より効果を上げるためにはどうしたらよいか。世界中で今、研究が進められています。

医療従事者サイト m3.comより

免疫チェックポイント阻害薬は免疫のブレーキ機構を解除する治療法なので、がんに対する免疫力は上がりますが、場合によっては自己免疫疾患のような副作用が起こります。そのため、抗がん剤治療とはまったく違った副作用が多く観察され、あらゆる臓器に様々な自己免疫反応による症状が生じる可能性があります(図3、ここでは省略)。

間質性肺炎、心筋炎など重篤な副作用もあり、大腸炎、重症筋無力症、甲状腺機能異常、1型糖尿病などさまざまな自己免疫反応が起こり、臓器を障害します。今までの抗がん剤とまったく違う副作用が予測不能で起こるので、早期発見、抗体の中断、免疫抑制剤の使用など早期の対応が必要です。

医療従事者サイト m3.comより

免疫チェックポイント阻害薬は2014年に国内で初めて承認された新しい薬です。今後の研究に期待しています。

分子標的薬 ~がん細胞の「弱点」を狙い撃つ~

1. どのような薬なの?(仕組み)

分子標的薬は

がん細胞やがん細胞の増殖に必要な分子を標的とする薬

国立がん研究センター がん情報サービスより

です。がんの成長に不可欠な「特定の分子」だけを標的(ターゲット)にして、その働きをピンポイントで阻害するのです。

まず、使用を検討している分子標的薬に対応する遺伝子変異があるかどうかを調べます(遺伝子検査)。検査の結果、変異がある場合は、その分子標的薬を使用します。

国立がん研究センター がん情報サービスより
筆者

大腸がんであるわたしも、大腸カメラを入れて少量を摘出し、遺伝子検査を行いました。

この分子標的薬について、キャンサーネットジャパンのPDFに詳しく書かれています↓

2. どのようながんに使われるか?

標的となる遺伝子変異が見つかった場合にのみ使用されます。

代表的な標的分子と薬の例:

  • 肺がん(EGFR) → ゲフィチニブ(イレッサ®)、オシメルチニブ(タグリッソ®)など
  • 乳がん(HER2) → トラスツズマブ(ハーセプチン®)など
  • 大腸がん(EGFR) → セツキシマブ(アービタックス®)、パニツムマブ(ベクティビックス®)など

3. メリットと副作用

メリットは、

看護師

がん細胞の特定分子だけを狙う薬なので、他の正常な細胞への影響が少ないです。脱毛や吐き気といった副作用が比較的軽い傾向にあります。

であり、比較的高い効果が期待できる一方で、

看護師

皮膚障害(ニキビのような発疹、皮膚の乾燥)、爪囲炎(爪の周りの炎症)、下痢、高血圧、肝機能障害などの副作用が出やすいです

といった問題もあります。また、

看護師

しばらく使用しているとがん細胞に耐性ができて、効かなくなってくるので一定の期間しか処方できないという課題があります

副作用によって手がしびれてスマホができない、服のボタンが止められないなど、QOL下がって続けられなくなる場合もあります。

筆者

管理人は大腸がん用のベクティビックスを使用しています。皮膚の炎症、手足のしびれ、口内炎などの副作用があります。

管理人の副作用への対処法については、下記の記事にまとめてあります。

治療費について ~高額療養費制度の活用~

これら新しい薬は、残念ながら高額です。

筆者

分子標的薬を使っている管理人は、抗がん剤治療で毎回約11万円支払っています。

ただ、免疫チェックポイント阻害薬も分子標的薬も、公的医療保険の適用対象です。さらに、日本では「高額療養費制度」という優れた制度があります。

これは、1ヶ月(1日から末日まで)の医療費の自己負担額が、所得に応じて定められた上限額を超えた場合に、その超えた分が払い戻される制度です。

例えば、1ヶ月の総医療費が300万円かかったとしても、実際の自己負担額は10万円程度に収まります。さらに、過去12ヶ月以内に3回以上上限額に達した場合は、4回目から上限額がさらに引き下げられます(多数回該当)。

事前に「限度額適用認定証」を申請しておけば、病院の窓口での支払いを自己負担上限額までにとどめることができます。高額な治療を受ける際は、必ずこの制度を活用しましょう。

筆者

管理人も窓口での支払額を抑えるために申請しています。申請をしていなかった最初の入院では、CVポート手術、CT画像検査、血液検査、大腸カメラ検査で40万円近くの支払いでした。

詳細は国立がん研究センターの公式HPにありますので、参考になさってください。ここでは書ききれませんので、リンク先を参照願います。

筆者

思わぬ出費となりましたが、貯金や補助金のおかげでなんとか治療を続けられています。いざという時のためにも「がん保険」にはできる限り加入しておきましょう。

まとめ

免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の登場は、がん治療を「個別化医療」の時代へと大きく前進させました。管理人も分子標的薬のおかげで状態はよくなっています。

しかし、すでにご紹介したように、これらの薬も万能ではなく特有の副作用や耐性の問題、価格の問題もあります。

筆者

大切なのは、主治医や看護師と十分にコミュニケーションをとり、納得して治療に臨むことだと思います。結局最後は、自分の決断で治療方針も決めるからです。

積極的なコミュニケーションで不安を解消し、少しでも心安らに日常生活を送れるようにしましょう。

免責事項

この記事の著者である私は、医師や薬剤師などの医療資格を持つ専門家ではありません。

本記事の内容は、大腸がん闘病中の一人の人間として、

  • がん薬物療法看護認定看護師や腫瘍内科の医師への質問を通じて得た知識、
  • 国立がん研究センターに掲載されたがん情報

を個人的にまとめたものです。

つきましては、以下の点にご留意いただけますと幸いです。

  • 本記事は、医学的な診断や治療のアドバイスを行うものではありません。
  • 掲載情報については正確性を期しておりますが、その安全性を保証するものではありません
  • ご自身の治療については、必ず担当の医師や専門家に直接ご相談の上で、医師や専門家の指示に従ってください

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