がん治療は日々進歩しています。ひと昔前の「抗がん剤」と聞くと、強い吐き気や脱毛などを想像するかもしれません。しかし現在、がん治療は「がんを狙い撃ちする」新世代の薬が主流になりつつあります。
この記事は、大腸がんステージ4で実際に治療を受けている筆者が、主治医や専門看護師から教わった**「分子標的薬」と「免疫チェックポイント阻害薬」**という2つの新しい薬について、自身の体験も交えながら解説します。
「どんな薬なの?」「自分にも使える?」「副作用や費用は?」 そんな疑問を持つ、がん患者さんやご家族の不安に寄り添う情報をお届けします。
はじめにお読みください(免責事項)
筆者は医療従事者ではありません。この記事は、個人の治療体験や学習の記録、そして国立がん研究センターなどの公的情報に基づき構成されています。 医学的なアドバイスや診断に代わるものではありませんので、治療に関する最終的な判断は、必ずご自身の主治医や専門家にご相談ください。
【結論】新世代のがん治療薬とは?
まず結論からお伝えすると、これら新世代の薬は、がん治療を「オーダーメイド化」するものです。
従来の抗がん剤(細胞障害性抗がん薬)は、がん細胞だけでなく、分裂の速い正常な細胞(髪の毛、口の粘膜、血液を作る細胞など)も攻撃してしまうため、副作用が強く出やすいという課題がありました。
それに対し、新世代の薬は以下の点で異なります。
- 分子標的薬: がん細胞の増殖に関わる「特定の分子(弱点)」だけを狙い撃ちする薬。
- 免疫チェックポイント阻害薬: がん細胞が免疫にかけている「ブレーキ」を外し、自分自身の免疫細胞(T細胞)が、がんを攻撃できるようにする薬。
どちらも「がん細胞をより特異的に攻撃する」という共通点があり、がん治療の個別化(オーダーメイド医療)を牽引しています。
本記事では、まず「免疫チェックポイント阻害薬」から詳しく見ていきましょう。
免疫チェックポイント阻害薬とは? ~免疫のブレーキを外す薬~
化学療法の専門知識を持つ認定看護師さんから、この薬について詳しく聞きました。

がん細胞はとても賢くて、自分を攻撃しようとする免疫細胞(T細胞)に『攻撃するな』というブレーキをかけて、攻撃から逃れようとします

免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞がかけたこのブレーキを解除する薬です。ブレーキが外れたT細胞は、再びがん細胞を異物として認識し、攻撃できるようになります
2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑教授の研究で一躍有名になった「オプジーボ(一般名:ニボルマブ)」も、この仕組みを利用した薬です。

(画像:国立がん研究センター がん情報サービスより)
どのようながんに使われるか?
当初は一部の皮膚がん(悪性黒色腫)などに限定されていましたが、現在ではその有効性が認められ、多くの種類のがんで保険適用となっています。
使えるがんは
- メラノーマ(悪性黒色腫)、
- 非小細胞肺がん、
- 腎細胞がん、
- ホジキンリンパ腫、
- 頭頸部がん、
- 胃がん、
- 悪性胸膜中皮腫
などです。
国立がん研究センター がん情報サービスより
- メラノーマ(悪性黒色腫)
- 非小細胞肺がん
- 腎細胞がん
- 胃がん
- 頭頸部がん
- ホジキンリンパ腫
- 悪性胸膜中皮腫 など
(※使用できる条件は、がんの種類や遺伝子の状況によって細かく決まっています)
メリットと注意すべき副作用
メリット:一部の患者には持続的な効果も
この治療が注目される理由は、従来の治療が効かなくなったがんに対しても、一定の割合(10%~30%程度)で明確な治療効果を示す点です。 さらに、効果があった場合には、その効果が長く続く可能性があると期待されています。
デメリット:特有の副作用と奏効率
一方で、現時点では「効かない患者さんの方が多い」(奏効率10~30%)という課題もあります。
また、副作用の出方が従来の抗がん剤と全く異なります。 免疫のブレーキを外すため、がんだけでなく「自分自身の正常な細胞」を免疫が攻撃してしまう「自己免疫疾患」に似た副作用が起こる可能性があります。
<主な副作用の例>
- 間質性肺炎、心筋炎(重篤な場合あり)
- 大腸炎
- 甲状腺機能異常
- 1型糖尿病
- 重症筋無力症
これらは全身のあらゆる臓器に起こる可能性があり、早期発見と専門的な対応(薬の中止、免疫抑制剤の使用など)が不可欠です。
筆者私はまだこの免疫チェックポイント阻害薬を使ったことはありません。
分子標的薬とは? ~がんの「弱点」を狙い撃つ薬~
次に、分子標的薬です。これは、がん細胞の増殖や生存に不可欠な「特定の分子」だけを標的(ターゲット)にして、その働きをピンポイントで阻害する薬です。
仕組みと「遺伝子検査」の必要性
分子標的薬を使うには、まず「自分の、がんの弱点」がその薬に対応しているかを調べる必要があります。
がん細胞の「どの遺伝子に変異があるか」を調べる遺伝子検査(がんゲノム検査など)が必須です。
検査の結果、薬の標的となる遺伝子変異(例:EGFR、HER2など)が見つかった場合にのみ、その薬を使用できます。
筆者私も大腸がんの治療方針を決める際、大腸カメラで採取した組織を使い遺伝子検査を行いました。その結果、使用できる分子標的薬があることが分かり、現在の治療につながっています。
どのようながんに使われるか?(代表的な薬の例)
標的となる遺伝子変異が見つかった場合に使われます。
- 肺がん(EGFR変異など)
- ゲフィチニブ(イレッサ®)
- オシメルチニブ(タグリッソ®)
- 乳がん(HER2陽性など)
- トラスツズマブ(ハーセプチン®)
- 大腸がん(EGFR陽性など)
- セツキシマブ(アービタックス®)
- パニツムマブ(ベクティビックス®)
メリットと特有の副作用
メリット:正常細胞へのダメージが少ない
看護師さんによると、最大のメリットは

がん細胞の特定分子だけを狙うため、他の正常な細胞への影響が少ない
点だそうです。
これにより、従来の抗がん剤で顕著だった脱毛や強い吐き気といった副作用が、比較的軽い傾向にあるとされています。
デメリット:皮膚障害や「耐性」の問題
一方で、分子標的薬にも特有の副作用があります。

皮膚障害(ニキビのような発疹、皮膚の乾燥)、爪囲炎(爪の周りの炎症)、下痢、高血圧などが比較的出やすい副作用です
筆者私も現在、大腸がん用の「ベクティビックス」を使用していますが、まさに説明通りの副作用が出ています。
・顔や背中の皮膚の炎症
・手足のしびれ(スマホが操作しにくい、服のボタンが留めにくい)
・口内炎
これらは生活の質(QOL)に直結するため、日々のケアが欠かせません。(具体的な対処法は別記事抗がん剤治療の副作用と向き合う – 私が実践している対処法にまとめています)
また、もう一つの大きな課題が「耐性」です。 しばらく使用していると、がん細胞がその薬に耐性を持ち、効かなくなってしまうことがあります。そのため、永久に使い続けられるわけではないのが現状です。
治療費について ~高額療養費制度の活用~
最後に、お金の話です。これらの新世代の薬は、残念ながら非常に高額です。
筆者私が分子標的薬を使った抗がん剤治療で支払っている金額は、1回の治療(月2回)で約11万円です。
しかし、日本には「高額療養費制度」という強力なセーフティネットがあります。 これは、1ヶ月(1日~末日)の医療費の自己負担額が、所得に応じて定められた上限額を超えた場合に、その超えた分が払い戻される制度です。
例えば、1ヶ月の総医療費が300万円(3割負担で90万円)かかったとしても、一般的な所得区分の方であれば、実際の自己負担額は月10万円程度(※)に収まります。 (※所得や過去の利用回数によって上限額は異なります)
筆者治療が始まる前に「限度額適用認定証」を申請しておけば、病院の窓口での支払いを自己負担上限額までに抑えることができます。 私は最初の入院時(検査やCVポート手術)に申請が間に合わず、窓口で40万円近く支払いました。後から払い戻されましたが、一時的な負担は大きかったです。 高額な治療が始まる際は、必ず事前に申請しておくことを強くお勧めします。
詳細は、国立がん研究センターのがん情報サービスや、ご自身が加入している健康保険組合の窓口で必ずご確認ください。
・医療費の負担を軽くする公的制度(国立がん研究センター がん情報サービス)
まとめ:納得して治療に臨むために
免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の登場により、がん治療は「個別化医療」の時代へと大きく前進しました。私自身も、分子標的薬のおかげで病状をコントロールできています。
しかし、これらの薬も万能ではなく、特有の副作用や耐性、費用の問題があります。
最も大切なのは、主治医や看護師と十分にコミュニケーションをとり、ご自身が「納得して」治療に臨むことだと、私は体験から痛感しています。
分からないこと、不安なことは遠慮せずに質問し、少しでも心を軽くして日常生活を送れるようにしましょう。
この記事の著者である私は、医師や薬剤師などの医療資格を持つ専門家ではありません。
本記事の内容は、大腸がん闘病中の一人の人間として、
- がん患者としての実体験、
- がん薬物療法看護認定看護師や腫瘍内科医師への質問を通じて得た知識、
- 国立がん研究センターに掲載されたがん情報
を個人的にまとめたものです。
つきましては、以下の点にご留意いただけますと幸いです。
- 本記事は、医学的な診断や治療のアドバイスを行うものではありません。
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